2010-09-30 10:23:50
トンネル格言3-斉藤氏のトンネル十訓
おはようございます。晴れ間は昨日だけで、また肌寒い雨模様に逆戻りです。こうやって季節が移り変わっていくのでしょうか。
さて、今日はトンネル格言です。
先に書きました足立氏の隧道十訓は木製支保工時代の内容であるため、その精神はともかく、今から見ると表現はやや古めかしいです。
これに対し、戦後に機械化掘削、鋼製支保工の時代となったのを受け、足立氏と同じく国鉄の技術者であった斉藤徹氏が、足立氏の十訓を下記のように修正しました。
1.地相は人相,山の性状(たち)
2.中心狂えば,屋台は揺らぐ
3.山のゆるみは気のゆるみ
4.余掘りはぜい肉,国の損
5.石堅くても,山堅いとは限らない
6.おさえなき支保工,葦のごとし
7.埃たたぬのに,水ないものか
8.わが家大切,天井なおせ
9.機械の故障で100人遊ぶ
10.坑内軌道は,鉄道と思え
上記のうち、足立氏の十訓から修正されたもののみを解説します。
2.は、トンネル建設時の中心線の測量の大切さを説いたものです。測量が狂っていると、最終的に結合しあわなくなることも、さることながら、その修正のために大がかりな手戻り工事となる=会社の屋台骨も揺らぐという意味です。別に機械化掘削か否かに関係しませんね。
当社の千田前社長から聞いた話ですが、昭和30年当時のあるトンネルの建設時に、トンネル貫通直前に測量担当者が雲隠れしたそうです。そのトンネルは難工事で、地質不良の箇所を避けつつの予定外の屈曲をいくつも造りながら掘り進めていたそうで、測量担当者の心労が伺れます。ちなみに、トンネルは無事貫通し、その報を聞いて喜び勇んで現場に帰ってきたとのことです。
今日の日本のトンネル測量は、貫通時の誤差が1センチ未満に収まるほどの高精度になっています。
4.は、余掘りを戒めた内容です。これも機械化の有無とは関係ありませんね。
余掘りというのは、発破(ダイナマイトなど)の爆薬量が多すぎるなどで、設計覆工巻厚分よりも余計に多く地山を崩してしまうことです。これにより、地山も余計に不安定化するし、またコンクリートの量も増えるので、余計なお金がかかります。古今東西、洋を問わず、余掘りへの工事費の増減というのは、発注者と施工者の最大のもめ事です。
6.は、支保工の緊結保持の大切さを説いた内容です。支保工は楔などを用いて地山と十分密着させなくては、役に立たないどころか、葦のように簡単に倒れてしまうよ、という意味です。
かつての十訓での鼻梁とか遣らずのような古い用語を、言い換えたということでしょう。
8.は、我が家の天井もトンネルの天端も、とても大事なのにもかかわらず、後で直すのは大変なので、きちんと施工(巻厚や品質)するのは当然である、もし不備があったら施工期間中に直すくらいの気持ちで、という意味です。
この格言からは、かつての古典的土圧論(=土圧のほとんどは鉛直からの土圧)の考え方がひしひしと伝わってきて、必ずしも現代の弾塑性土圧論とはマッチしていないかもしれません。だからといって、天端が大事であることには変わりありません。
9.は、これぞ、機械化施工ならではですね。機械を使った施工の場合、当然に施工効率はあがるわけですが、逆に、機械が壊れるなどするとあっという間に工事全体が停滞することになります。そのように、作業員を遊ばせることのないように、機械のメンテを含めた施工計画を立てなさい、という意味です。
10.は、坑内へレールを敷いて、トロッコやバッテリーロコなどで掘削土砂を排出する工法を指しています。インディージョーンズとか、ディズニーランドのビックサンダーマウンテンのイメージです。
戦前も、レールを敷いて、トロッコで土砂を運搬していたわけですが、戦後の大断面の機械化掘削となると、その量も飛躍的に増えます。つまり、より重量物を運搬することになるので、単なる仮設物ではなく、本設の鉄道なみの厳密な基準で管理しなければいけない、という意味です。
1,3,5,7は、表現が端的でかつ力強く、変える必要を感じなかったのでしょうね。
では、また。
※1 以上、引用、参考文献「山岳工法の調査・設計から施工まで」(地盤工学会)
※2 こんな短文の格言なので、いろいろな解釈/表現の仕方が発表されています。本ブログに記載する意味は、それらを横目で睨みつつ、筆者の好み?を味付けしている内容であることを、お含みおきください。
さて、今日はトンネル格言です。
先に書きました足立氏の隧道十訓は木製支保工時代の内容であるため、その精神はともかく、今から見ると表現はやや古めかしいです。
これに対し、戦後に機械化掘削、鋼製支保工の時代となったのを受け、足立氏と同じく国鉄の技術者であった斉藤徹氏が、足立氏の十訓を下記のように修正しました。
1.地相は人相,山の性状(たち)
2.中心狂えば,屋台は揺らぐ
3.山のゆるみは気のゆるみ
4.余掘りはぜい肉,国の損
5.石堅くても,山堅いとは限らない
6.おさえなき支保工,葦のごとし
7.埃たたぬのに,水ないものか
8.わが家大切,天井なおせ
9.機械の故障で100人遊ぶ
10.坑内軌道は,鉄道と思え
上記のうち、足立氏の十訓から修正されたもののみを解説します。
2.は、トンネル建設時の中心線の測量の大切さを説いたものです。測量が狂っていると、最終的に結合しあわなくなることも、さることながら、その修正のために大がかりな手戻り工事となる=会社の屋台骨も揺らぐという意味です。別に機械化掘削か否かに関係しませんね。
当社の千田前社長から聞いた話ですが、昭和30年当時のあるトンネルの建設時に、トンネル貫通直前に測量担当者が雲隠れしたそうです。そのトンネルは難工事で、地質不良の箇所を避けつつの予定外の屈曲をいくつも造りながら掘り進めていたそうで、測量担当者の心労が伺れます。ちなみに、トンネルは無事貫通し、その報を聞いて喜び勇んで現場に帰ってきたとのことです。
今日の日本のトンネル測量は、貫通時の誤差が1センチ未満に収まるほどの高精度になっています。
4.は、余掘りを戒めた内容です。これも機械化の有無とは関係ありませんね。
余掘りというのは、発破(ダイナマイトなど)の爆薬量が多すぎるなどで、設計覆工巻厚分よりも余計に多く地山を崩してしまうことです。これにより、地山も余計に不安定化するし、またコンクリートの量も増えるので、余計なお金がかかります。古今東西、洋を問わず、余掘りへの工事費の増減というのは、発注者と施工者の最大のもめ事です。
6.は、支保工の緊結保持の大切さを説いた内容です。支保工は楔などを用いて地山と十分密着させなくては、役に立たないどころか、葦のように簡単に倒れてしまうよ、という意味です。
かつての十訓での鼻梁とか遣らずのような古い用語を、言い換えたということでしょう。
8.は、我が家の天井もトンネルの天端も、とても大事なのにもかかわらず、後で直すのは大変なので、きちんと施工(巻厚や品質)するのは当然である、もし不備があったら施工期間中に直すくらいの気持ちで、という意味です。
この格言からは、かつての古典的土圧論(=土圧のほとんどは鉛直からの土圧)の考え方がひしひしと伝わってきて、必ずしも現代の弾塑性土圧論とはマッチしていないかもしれません。だからといって、天端が大事であることには変わりありません。
9.は、これぞ、機械化施工ならではですね。機械を使った施工の場合、当然に施工効率はあがるわけですが、逆に、機械が壊れるなどするとあっという間に工事全体が停滞することになります。そのように、作業員を遊ばせることのないように、機械のメンテを含めた施工計画を立てなさい、という意味です。
10.は、坑内へレールを敷いて、トロッコやバッテリーロコなどで掘削土砂を排出する工法を指しています。インディージョーンズとか、ディズニーランドのビックサンダーマウンテンのイメージです。
戦前も、レールを敷いて、トロッコで土砂を運搬していたわけですが、戦後の大断面の機械化掘削となると、その量も飛躍的に増えます。つまり、より重量物を運搬することになるので、単なる仮設物ではなく、本設の鉄道なみの厳密な基準で管理しなければいけない、という意味です。
1,3,5,7は、表現が端的でかつ力強く、変える必要を感じなかったのでしょうね。
では、また。
※1 以上、引用、参考文献「山岳工法の調査・設計から施工まで」(地盤工学会)
※2 こんな短文の格言なので、いろいろな解釈/表現の仕方が発表されています。本ブログに記載する意味は、それらを横目で睨みつつ、筆者の好み?を味付けしている内容であることを、お含みおきください。